1855人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、驚いた。まさか、こんな偶然があるなんてな」
‘‘ 絶句 ” という言葉がピッタリのような、そんな様子で、AKIさんは今だに驚いた表情をしたまま。
「タケルは元気にやってるかい?」
「はい。ドイツに渡って半年以上、経ちますが、向こうでの環境や言葉に苦労しながらも、毎日頑張ってます」
「……そうか。もう、何年も会ってないんだ。タケルの様子は、専ら正昭から聞いているんだが。
タケルに、結婚間近な子がいることも、正昭からは聞いていたが、まさか相手が川澄さんとはね。驚いたよ」
そう話す、AKIさんの表情は十数年後のタケルを想像出来るほど似ていて、やっぱり、『父親』であることを再認識する。
AKIさんはその後、何も言わぬまま、遠くを見るような眼差しで、何か考えているようだった。
私も、それ以上喋ることなく。
ただ一言、タケルからの伝言を思い出し、それを口にする。
「AKIさんと仕事するって、タケルに話したら。よろしく言っといて、と伝言を預かりました」
「……そうか。よろしく、か」
私の言葉に対して、AKIさんは何を思ったのかは分からないが、一瞬、肩を揺らして笑った。
そして、私の目を見ると、
「タケルのこと、これからもよろしくお願いします」
と言って、頭を下げたのだった。
そんなAKIさんを見て、私も慌てて深々と頭を下げる。
「こちらこそ、至らない点も多い私ですが、どうぞよろしくお願いします」
と言った後に、
「必ずタケルを幸せにします」
と付け加えた。
それを聞いたAKIさんは目を細くして笑った。
最初のコメントを投稿しよう!