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2時間ほど経つと、AKIさんは満足したようにカメラを肩にかけて戻ってきた。
これから、またすぐに別の仕事を控えている為、空港へ戻るというAKIさんは、慣れた手つきで、カメラを専用ケースに仕舞い始める。
「真木、一つ提案なんだが」
帰り支度をしながら、AKIさんが先生を呼びかけた。
「良い写真が撮れたおかげで、イメージが湧いたから。表紙・裏表紙の撮影まで、全てを俺が引き受ける」
「ちょっと! ちょっと待って! 頼みたいのは、山々だけど、AKIさんに撮って貰っただけで、もう予算ないから。これ以上、削るとこないもの」
先生が慌てるのを他所に、AKIさんは、
「いい。ノーギャラで。金は受け取らない」
そう言い残すと、こちらの返事も聞かずに、AKIさんは足早に荷物を抱えて、この場を去って行った。その背中を見送りながら、
「全く、いつも強引で本当に勝手な奴。でも……思うことがあってのことだと思うから。良かったわね、ひまりちゃん」
と、先生のそんな言葉に返事することなく、気付いた時には足が動き、AKIさんの後を追いかけていた。
長い足でぐんぐん進むAKIさんの背中はもう小さくて。全力で走って追いかけられない私は 、スゥっと大きく息を吸い込み、
「AKIさんっ! ありがとうございました!」
と、大声で叫んだ。AKIさんは私の声に気づいたようで、こちらに振り返ると、両手をめいいっぱい振って、白い歯を見せて笑いながら、また歩き出した。
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