ヤキモチの答え

6/15
前へ
/440ページ
次へ
手を伸ばせば、すぐに届きそうなのに。 大声を張り上げれば、私の声があなたに届きそうなのに。 会いたくて、会いたくて、仕方なかったのに。 近いようで、遠く感じるのは、ピッチに立つあなたが別人のように思えるから。 ブルーのユニフォームに袖を通して、胸に日の丸を背負ったあなたは、私が馴れ馴れしく、その名を呼んではいけないんじゃないかと思う位に、違う人に見えたんだ。 あれほでまでに、 恋い焦がれて、 会いたくて、涙したのに。 今、あなたは目の前にいるのに、 何でこんなに切ないんだろう? そうして私は、鋭い眼光でボールを追い続けるタケルを、そんな気持ちのまま90分間を見守り続けた。 試合が終わると、また人の波は駅の方向に向かって押し寄せる。日本代表は2ー0で勝利を収め、タケルは1アシストという結果を残した。 「絶妙だったね! 松本のパス。あいつドイツ行っての成果あったんじゃない?」 「いやぁ! 興奮したよ! 皐月ちゃんがいてくれたから、分かりやすく解説してくれたから助かった!」 お父さんと皐月は興奮冷めやらぬ状態で、試合を振り返っていた。 ふとスタジアムを出る時に、人だかりが出来ている輪に気づく。 「あれ、何してるの? 皐月ちゃん」 そんなお母さんの問いかけに、皐月は答える。 「選手の乗ったバスが、あそこから出てくるんだと思いますよ。サポーターは、選手見たさにあそこで出待ちしてるんですよ」 あそこにいれば、タケルを見れるの? でも、いい。見たくない。 私は『見たい』んじゃなくて、 『会いたい』んだもん。 ってかさ! 考えてみてよ!? 半年以上ぶりに会えるのに、 メールや電話の一本もなし! 会えたはずなのに、何で私はこんな疎外感を味わっている訳!? 会いたいと思ってるのは私だけなの? そう思ったら、なんか無性にイラついてきた私。 皐月が「出待ちする?」と聞いてきたけど 「しない。帰る」 と、だけ答えて、私は足も止めずに駅へ向かった。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1855人が本棚に入れています
本棚に追加