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「言っておくけど。僕は怒ってたから無視してたんだ」
「…うん」
「それがわかってるなら、お前が今誰と話してるか考えてみれば?」
突き放すようにそれだけを言って、歩調の鈍い長身を置いて先に進む。
数メートル離れたところで、後ろから足音が聞こえてきた。
それに振り返ることはしないで歩いていると、僕の隣に並ぶように突き出る淡い栗色。
身長差が目立つから、こうして隣に並ばれるのはあまり好きじゃないんだけど。
それでも、さっき見た落ち込んだ表情とは打って変わってうざったい程の笑顔だから。
小言も自然と喉の奥に落ちていく。
好きじゃないものと、好きなもの。
目の前に並んでいたらどっちを取るかなんて、考えなくてもだ。
「佐野サン、もう怒ってないの?」
「さっき言ったろ。僕はお前みたいにうじうじ悩むなんてことしないんだよ」
「…だったらいつまでも機嫌悪そうな顔しないでくださいよ。
俺、言われないと気づけないから、そんな顔してたら怒ってるんじゃないかって思うじゃないですか」
珍しく意見的な返答に驚いて、顔を覗き込むように見上げる。
少し前は遠慮してたのかなんなのか。
こうやって口を尖らせて文句を言うこともなかったけど、今じゃこうだ。
面倒臭くなったと言えばそうだけど、でも不満でもないし嫌でもない。
ほどほどに張り合いがないと僕もつまらないから。
最も、恭平に一言も二言も文句を垂れ流されても、痛くも痒くもない。
けれど――
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