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「なに、僕のせいなの」
「そうじゃなくて!そんな顔してるよりも笑ってた方が俺は好きだって言ってるの!」
気を抜けば、さらりと零れる物騒な言葉。
こんなだから滅多に笑顔なんて見せられやしないのだ。
恭平のことだからきっとそんなこと、思いもしないのだろう。
それが余計にむかつく。
「それ、逆効果だから」
「なにが?」
「…なんでもない」
聞かれても絶対に答えられない。答えられるわけがない。
伺うように覗き込んでくるから、さっと目を逸らして明後日の方を向く。
はぐらかすように空いている手を引いて歩き出すと、慌ててついてくる足音。
とにかく、一刻でも早くこの状況をなんとかしたくて。
歩調を早めると、不意に握っていた手が離れた。
そうして指を絡めて握り返される。
驚きに思わず顔を上げれば、ばっちりと目が合って満面の笑み。
恥ずかしげもなく笑いかけてくるもんだから。
いつまで経っても僕は、それにちゃんとした答えを返してやれない。
「気持ち悪い」
「もう…佐野サンってほんと口悪いですよね。
俺だからいいけど、他の人にそんなことしたら悪く思われちゃいますよ」
「…こんなこと、お前以外に言うわけないだろ」
無意識に口を突いて出た言葉。
瞬間、しまったと思った。
墓穴を掘ったとはまさにこのことで。
慌てて距離を置こうとしたけど、どうやら遅すぎたようだ。
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