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「は?
今までかくまってきた実の娘に対して?」
寿親の話にはいつだって驚かされる。
教幸も照れている場合ではなくなったようで、今まで通り、普通に話しかけてきた。
「だから、そういう男だって散々言ってるだろ。
左大臣がどこまで知っているかわからないが、焦ってることは間違いない。
式神の失敗は、陰陽頭にはわかる。
一応、相手が私であることは悟られぬようにそれなりの細工はしているが。万が一、見抜くような相手であれば厄介だ。
ただ、一人誰かを殺害できたことも伝わっているから、これをどう左大臣に報告するかは――なかなか憶測しかねる部分だ。
わかるか?
私はただの情や気の迷いで助言したわけじゃない。
左大臣を敵に回す必要、教幸にはないだろう?」
「それなら、寿親にだって――。
そもそも、東宮様の話を持ち込んだのは俺なんだし」
「そんな些末なこと、気に病む必要はない。
これはきっと、天命だ」
唐突にふわりと色気のある笑みを、寿親がその顔に浮かべて見せた。
女好きを自負する教幸が思わずドキリとしてしまうほどの、無駄に魅力のある微笑みだった。
「私にはあるのだよ、教幸。
あの男を敵に回す必要が」
寿親が口にした声は、毒をもった蛇のような恐ろしさと気味悪さをたっぷりと含んだ重たいものだった。
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