6/12
前へ
/103ページ
次へ
 その一言で緊張の糸がぷつっと緩んだのか、姫は座り込んでしまった。 「あの――。  おゆうに付き添ってくださってありがとう」  教幸に頭を下げ、そして、はっと顔をあげた。 「あ、今更ですけど、  お二人に怪我させたりということはありませんでしたか?」 「ええ、全く」  教幸はどぎまぎしながらそう応えた。恋愛過多の傾向にある教幸は、既に自分がこの姫に心奪われてしまったことを自覚していた。 「それは良かった」  姫はほっとして僅かに笑みを浮かべると、憮然とした表情で手持ちの布を手に巻いている寿親を見上げた。 「あなたも――」 「ああ。問題ない。  この傷のことなら気にするな。すぐに治る」  寿親はさらりと言った。  すっきりした一重の目元を、僅かに緩ませ微笑んだ。  驚いたのは、姫ではなく教幸だった。  この男が、ほぼ初対面のしかも女性に僅かとはいえ微笑みかけるなんて――  前代未聞の事態を目の当たりにして、教幸の胸に悪い予感がよぎって行った。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

506人が本棚に入れています
本棚に追加