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 ようやく人心地ついたのか、姫はほうっと息をつき――、途端自分の緋色の髪が目に入った。  いつも、人前に出るときは用心して黒い毛で作った鬘を身に着けていたのに――。  姫は慌てて几帳の向こうへと身を隠そうとした。咄嗟に寿親が姫の腕を掴む。まるでこのまま几帳の奥にやってしまったら、姫が消えてしまうとでも思っているかのように、俊敏な動きだった。  そうして、とても大切なものを見つめるまなざしで姫を見た。 「気にすることはない。  とても美しい色だ」  姫は頭をふる。 「お父様が言うの。  こんな髪を持つ者は鬼に違いない――と。  鬼の姿を見せたらお二方に何が起こるか――」  怯えた瞳と震える声。これまで、この髪のせいでどれほど嫌な目にあってきたのだろう――。  そう思うだけで、寿親は胸の塞ぐ想いがこみ上げてきた。 「そのように穢れなき、邪気なき瞳を持つ鬼など、いるはずがない。  それに、そなたは先ほどから人の心配ばかりして――。  まだ、血の気も戻ってないのだ。もう少しお休み。  ここに居る間は、式神も手出しできないから安心するといい」  それは、姫が今まで耳にしたことのないほど、優しさにあふれた声だった。  突然の出来事に衝撃を受け、我に返った後も他人のことばかり気になって自分には全く想いを馳せなかった姫も、寿親の声に我に返り――そして、目の前にある穏やかな瞳を持つ見知らぬ青年のことを信頼するに値すると判断している自分に驚きもした。
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