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本当に、教幸にはかなわない――。
「――それに、二の姫のこと放っておけないだろ」
沈黙を破ったのは教幸の方だった。
「言うと思った」
寿親が苦笑を漏らす。
相手が何であろうと(相手の身分を気にしないのは当然のこと、人でないものであっても)、美女を見ると惚れずにはいられない教幸が二の姫に惚れないわけがない。
「でも、今回は譲るよ。
もう一回、狸の姫に掛け合ってくれるのを条件に――」
その言葉に、思いがけず寿親の心臓がドキリと動いた。
いつも冷静沈着な自分の中に、ふわふわとした何かが湧き上がるのを改めて自覚して脈が上がる。
艶のある緋色の髪。
少し力を入れると壊れてしまいそうなほど華奢な身体。
何かをため込んでいるのだろう、本音を隠し強くあろうとするための怒鳴り声。
自分のことよりまず他人を心配する、優しい心根。
言葉にすると、どれもこれも恋が始まる決定だなんて思えないのに。
――やはりこれが一目惚れ、というものなのだろうか。
頭よりずっと、身体の方が正直なことに驚いていもいた。
「そうはいっても、狸の姫はあまりすすめたくないのだが――」
我に返ってそう口にしたときは、既に教幸は食事を終えて席を立った後だった。
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