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姫はまだ幼い頃、この呪われた髪の威力が半減すればと、小刀でざくざくと自分の髪を切り落としたことがあった。
その頃出逢った少年が、にこりと笑って「その髪、伸ばせばもっと似合うのに。もったいない」と強い口調で言い切ってくれたから、ただただその言葉をよすがにそれ以降髪を伸ばしていたのだけれど。
この髪の色が美しいと言われたことはなかったし、そう考えたこともなかったので、本当に心から嬉しく思った。
「あ、あのでも……。
これは、呪われた髪なのではとも思うし、人から畏れられるのも嫌なので――。
普段は鬘を付け続けるけど、それでも良ければ」
「構わぬ。
私しか知らない貴女が、いてくれたほうがいい」
気持ちがにじみ出ている寿親の言葉に、姫は――朝姫は、どうしてよいのかわからずただ視線を下げるばかりだった。
「ほら、見てごらん。
もうすぐ夜が明ける。
こんなに美しい朝焼けは久方ぶりだ」
ふわりと、遠慮がちに寿親の白い指が緋色の髪に触れた。
「この髪がそんなに褒められるなんて――」
戸惑いがちに、それでも徐々に白んでいく朝焼けをもう一度見ておこうと姫はゆっくりと顔をあげた。
「もちろん、髪だけが気に入ったなんてことはない。
貴女のすべてが愛おしい」
寿親は、誰にも見せたことのないそれはそれは心のこもった甘い微笑みを見せると姫の唇にそっと自分の唇を重ねたのだった。
まるでそれが、当たり前のことであるかのように。
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