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「――っ」
まだ、裳着もすませていない姫は予想もしなかった出来事に驚いて倒れそうになった。寿親はそんなこと最初から予測できていたかのように腰を引き寄せ腕の中へと抱き寄せる。
ふわりと心地よい香が朝姫を包み込んでいった。
「何も心配することはない。
貴女のことは私が護る」
「でも――」
突然そんなことを言われても姫は困惑するばかりだ。
ただ、優しく抱き寄せてくれるこの腕を振り払おうとまでは思えずに、寿親の胸に頬を寄せ鳴り響く胸の音に耳を傾けていた。
「そろそろ朝餉の時間だ」
「あ――では、私が支度を――」
腕の中でそう言って抜け出そうとする姫を寿親はそっと抑える。
「いえ、私のところの女房にさせているので心配なく。
台所は勝手に使わせてもらった」
「そんな……。何から何まで」
「私も知らなかったよ、朝姫。
こんなに誰かの為に何から何までしたくなる――ことがあるなんて」
耳元で甘く囁かれ、朝姫はますます顔があげられなくなるのだった。
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