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 いつものように涼やかな寿親と、どこか挙動不審な朝姫の様子を見るともなしに見ながら、教幸も朝食をとった。  早めの朝食を終わらせると、寿親はようやく朝姫に簡潔に説明を始めた。  所用があって宇治に来たこと。そこで、たまたま悲鳴をききつけてこの屋敷に駆けつけたこと。  少しだけ事実と違ってはいたが、些細な部分だし何か深い考えがあるのだろうと思い、教幸はあえて口を挟まなかった。 「どうして私の正体を?  京の人は私のことなんてご存じないと思っていたから、驚いたわ」  一瞬ぎくりと頬を引きつらせる教幸とは裏腹に、寿親は余裕たっぷりに頷いて見せた。 「文様――  ほら、そこにも」  調度品の一つに描かれている美しい文様を示した。 「同じものを左大臣家で見たことがある」  この文様は、後の世の家紋の元になったもので、貴族が各家固有の目印として使いはじめていたものだった。 「細かいところまでよく見ているのね」  姫は尊敬と感心を織り交ぜたようなうっとりした視線を寿親に向けた。  寿親もそれに微笑みを返す。  恋愛に聡い人が同室にいたらいたたまれなくなりそうな雰囲気を醸し出していたが、幸い――というか、なんというか。教幸は惚れっぽいものの、その恋愛が成就したことが一度もないほど恋愛下手だったので、特にこの部屋にいてもいたたまれない――という感情は抱くことはなかった。
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