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 だから、今、するりと教幸が立ち上がって部屋を出て行ったのは決して空気を読んだから――などではない。  どこかで、かたり、と言う音が聞こえたからだ。 「癖みたいなものだ。  気を悪くされたなら――」  寿親の言葉を姫はやんわりと遮った。 「いいえ。そういうわけではないの。  それで、式神とやらは誰がつかわせたものなの?まさか、自分の意志で飛んできたわけじゃないでしょう?」  寿親はそっと姫から視線を外す。 「――お父様、なんでしょ?」  姫は、震えを押し隠してなんとか作った落ち着かせた声でそう言った。 「私がここにいることを知っている人なんて、ほかにいるはずがないものっ」  握り締めたこぶしだけは、耐え切れずに震えていた。 「朝姫」  寿親はその震える手を掴もうと手を伸ばした。  その時。 「寿親――」  遠くで、教幸がその名を呼んだ。
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