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「ここに居て」
寿親はそう言い残して、教幸の声を追った。
教幸は玄関先で、どう見ても不吉な藁人形を見て眉を潜めていた。
「寿親、これって――」
不安げに眉を潜める教幸に対して、寿親はさっと顔色を変える。
「罠だ、教幸。
それは中庭でこの護符とともに燃やせ」
早口でそう言うと、扉を閉め護符を張り直し印を結んでから急いで姫の元へと戻った。
姫は真っ青な顔で震えていた。
寿親はぎゅうとその身体を腕の中へと抱き寄せた。
「式神風情に何ができる。
去れ」
怒鳴るように言うと、改めて口の中で呪詛返しとなる呪文を唱え始めた。
「――私――っ」
なんとかとりついた式神が調伏できたようで、我に返った姫は現状に驚いて目を瞠った。
その身は強い力で抱き寄せられていて身動きさえ取れない。
「どうやら、呪詛だけにとどまらずここまで足を運んできたようだ」
「――っ」
「大丈夫。貴女のことはもう、手放さない。
つらい思いをさせたね」
熱い吐息が耳に触れる。
くすぐったいような甘ったるいような、なんとも言えない気持ちになって、姫はまた顔を朱に染めるのだった。
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