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それから、随分長い時間、二人は抱き合ったままどうでもいいような雑談をして過ごした。
「――もう、大丈夫」
何を感じ取ったのか、不意に寿親がそう言って手を離した。
「大丈夫って言うのは――」
姫はその日一番不安そうな顔で、寿親を見た。
「――呪詛返しが成功した、と言うことだ」
寿親は言いづらそうに口にした。
「それって、つまり――」
姫もまた言いづらそうに、表情を歪ませる。
「依頼者に返ったか、呪詛したものに返ったか――。
それは改めて確認するほかないが、ひとまず姫の安全は確保できた」
「わかるものなの?」
「さっきまで満ちていた邪気がなくなっている」
寿親は至極当たり前のようにそう言った。
「――私には、何も感じなかったんだけど――」
「それはそうだ。
姫と違って、私は陰陽師だからな」
「でも、私は――鬼なんでしょ?」
真っ直ぐな瞳で寿親を見上げる姫はそうであることを、微塵も疑ってないようだった。
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