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姫はゆっくり視線を外す。
忌まわしい記憶が昨日のことのようによみがえる。
「それは――」
意を決して伝えようと顔をあげた時、寿親の顔色がものすごく悪いことに気が付いた。
「あ、あの――。
寿親様?」
「大丈夫。少し疲れただけだ。
夕風にでも当たれば収まる」
立ち上がろうとして、寿親はふらりと倒れてしまった。
姫の力では到底支えることもままならない。
「ここで待ってて」
姫は部屋から飛び出した。
手近な手拭いを井戸の水を引き上げる。
そのすぐそばに、無残にひしゃげたカエルの死骸を見かけてしまって苦いものがこみあげてきたが今はそれよりも急ぐことがあった。
「姫。
どうかされましたか?」
振り向くとそこに、教幸が立っていた。
手にしているのは夕餉だろうか。
「寿親様が、お倒れに――」
「寿親が?」
教幸が血相を変えた。
今まで幾度か寿親と一緒に物の怪と闘ってきたこともある。
教幸に、あやかしのことはよくわからぬが、今までどんなあやかしと闘っても寿親が負けたり傷つけられたりしたことなど皆無だった。
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