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「まさか、お前が倒れるなんて――」
姫が出て行った後、教幸はますます心配そうな顔で寿親を覗きこんだ。
「ちょっと、迂闊だっただけだ。
心配はいらない」
寿親は片頬を歪めて笑って見せたが、まだ、体調が悪いことは教幸の目から見ても明らかだった。
「迂闊って――らしくないな」
「だろ?
喜ぶといい。
今なら狸に熱をあげるお前に協力してやれる気がする」
まさか、堅物陰陽師の友人からそんな言葉を聞ける日が来るとは思っていなかった教幸は相好を崩した。
「きっとうまくいくさ」
「いや――それは無理だ」
しかし、応援の言葉を一言で否定され、目を丸くする。
「何故?」
「彼女と東宮は今でも気持ちが通じ合ってるんじゃないかな――。
だとしたら、後で知り合った俺に勝ち目なんてないよ」
いや、そんなことはない、と言い切れるほど、教幸には恋愛経験がなかった。
片想いの経験なら、山ほどあったが。
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