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「でも――
東宮様は何故、彼女の髪を黒髪って言ったんだろうな」
こんなに印象的な緋色の髪なのに――記憶から消えることがあるのだろうか。
「その答えは、京に戻って東宮を訪ねればすぐにわかるさ」
「ああ、そうだ。先ほどこれが届いた」
教幸は懐から一通の手紙を取り出した。
行儀悪く、寝床で夕餉をとった寿親は酒を煽ってからぞんざいにそれを受け取る。
――恐れ多くも東宮様からの手紙をそんなに雑に――という言葉は、胸の内に飲み込んだ。そんなことを言ったって、寿親の耳に届かないことは良く分かっている。
「我慢できず左大臣に、協力を依頼――って、あいつ、本当に何もわかってないな」
読み終えた寿親は頭痛がこみあげてきたのか、こめかみを抑えてそう吐き捨てた。
「その行動が、姫を危険に追い込んでいるというのに――」
ふらり、と、寿親の身体が揺れる。
「横になったほうがいい」
「そうしよう。
陰陽頭も、随分と酷い式神を放ってくれたもんだ」
なんでもないことのように呟いたそれを聞きとめて、教幸は目を丸くする。
「――陰陽頭が放ったのか――」
都で一番の陰陽師相手に、戦ったというのか、この男は。
「ま、今や息絶えていると思うがな」
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