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「何か、口にした方がいいですよ」
教幸は、ぼんやりと中庭を眺めている姫に声を掛けた。
「あ……でも……」
「お疲れでしょう。
簡単なものですが、夕餉を準備しましたので」
丁寧な口調でそう言われると、姫にそれを固辞する理由も思いつかず、誘われるまま夕餉の席に着く。
けれど、食欲はわいてこなかった。
「寿親――様は」
「寿親、で構いませんよ」
とってつけた敬称がおかしかったのか、教幸が唇の端を歪ませた。
姫は一瞬、顔をあからめる。
「大丈夫でしょうか?」
「ええ。
俺には物の怪やあやかしのことはわかりませんが、おそらく瘴気にあたっただけかと思われます。
一晩寝れば治るでしょう」
「そうだと、良いのですが」
姫の言葉からも表情からも、強く心配している様子がにじみ出ていた。
「大丈夫ですよ。
彼は陰陽師ですし、このようなことには慣れてますから」
教幸は励ますつもりでそう言った。
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