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しかし、姫の表情はますます険しいものになった。
「ではいつもあのように――」
人を抱きしめるんですか、と、姫は聞きたかったのだけれど、教幸は最後まで聞かずに口を開いた。
「いえ、いつもあんなふうに倒れるわけじゃないですよ。
普段はもっと凛としているというか、圧倒的に強いというか――。
俺も初めて見ました」
「え?」
質問しようと思ったこととは全く違う答えが返ってきて、姫は首を捻りながら教幸を見た。
教幸は、透明感があり可愛らしい――という言葉がこれほど似合う姫をいまだかつて見たことがなかった。
緋色の髪を異様だと感じさせないほどに、姫は可憐で美しかった。
「でも、もう大丈夫だそうです。
残念ながら、詳しいことは聞いてませんが」
うっかり口を滑らせそうになり、慌てて先手を打ってみる。
実直で不器用な教幸は、言葉でのこういうやりとりがきわめて苦手だった。
姫はそうですか、と、俯いた。
「とにかく、今はなんでもいいから口にしておいてください。
寿親は明日京に発つと言ってます。
いざという時、力が出ませんよ?」
「大丈夫ですよ。
私はここで、おゆうを弔えば、もうやることはありませんし」
「何を言ってるんですか?
姫も京に一緒に行くに決まってるじゃないですか」
教幸の言葉に、姫は目を丸くする。
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