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「だったらなおさら、食べないと」
「え?」
零れそうな感情を飲み込むのに必死だった姫は、突然告げられた声と言葉にびっくりして目を開く。
その拍子に涙が零れ落ちたが、教幸はそんなことなんでもないことのように白い歯を見せて笑った。
「本当に一人でなんとかしたいなら、なにはともあれ、とりあえず、これは食べた方がいいですよ。
腹が減っては戦は出来ぬ、と言いますし」
不意をつかれたのか、作り物ではない笑顔が姫の顔に浮かんだ。
そうして、ゆっくり食事を口に運ぶ。
「言われてみれば、そうですね。
――美味しい。
もしかして、これ、教幸様が?」
「いえ。
俺は料理なんて出来ません。
有能な女房が」
「そうなんですね。
すごい、元気が出そう」
それが、空元気かそうでないのか、の見分けは教幸にはつかなかったけれど、ほっとした気持ちにはなれた。
「そしてゆっくり眠って。
明日のことはまた明日、考えればいいじゃないですか」
あまり難しいことを独りで抱えてほしくなくて、姫にそう言ってみる。
――今まで、友人である寿親にも同じことを何度か告げてはいるのだが、彼の心には残念ながらこの言葉が届いたことはない。
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