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けれど、目の前の姫は一瞬目を丸くして、それから腑に落ちたように微笑んだ。
「そうですね。
お話で来て良かったです。
本当に、ありがとうございます。
えっと――」
「左近中将 九条教幸と申します」
「では、左近の中将様とお呼びしたほうが宜しいでしょうか?」
「いえ、寿親と同じように名前で呼んでいただいた方が」
「あら――。
言われてみたら私、あの方とは何故か言葉遣いもぞんざいなままお話していましたわ」
「アイツのぞんざいな口調につられたんですよ、きっと」
気が合ったんですね、最初から――とは言いたくなくて、教幸はそう言った。
「寿親様とはお友達なのですか?」
「ええ。
ああいう性分だから放っておけないって言うのもありますし」
「おもてになるのでしょうね」
つい、ぽろりと口をついた。
「アイツが?
まさか」
教幸は本気で驚いて見せた。
「他人には興味を示さない、氷のような男ですよ」
――言った後にしまった、と思ったがもう遅い。
姫は不思議そうな顔をしたが、教幸が急いで話題をかえたため、それ以上追及してくることはなかった。
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