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思いがけず楽しい時間となった夕餉が終わる。
教幸に空いている部屋を提供し、さて自分はどこで休もうかと考えながらも姫は、寝る前に一度だけ陰陽師の無事を確認しておきたくてそっと寿親の居る自室へと顔を出すことにした。
――氷のように冷たい男――
教幸が嘘を吐くとも思えないが、とてもそんな風には見えなかったのでそのことが気になってもいた。
寿親は、普段姫が休んでいるところで眠りについていた。
呼吸を確かめてホッとする。
――そういえば、時折こちらに遊びにきていたあの子、今も元気にしているかな――?
姫は幼い頃遊んだ男の子のことを突然に思い出していた。
あれ以来、親しい友人は出来なかった。
子供時代の、ほとんど唯一と言っていいほど楽しい思い出。
乱暴で、横柄で、自己中心的だったけれど、どこか憎めなくてむしろ懐いてしまったのは、今まで知っている人の中で唯一、姫の紅い髪の毛を一切気にしない人だったからだ。
「何を想ってる?」
楽しい記憶の旅は、低い声によってそっと蓋をされた。
「――え?
あ、つい昔のことを。
起こしてしまってごめんなさい」
「別に、姫のせいで起きたわけでは」
寿親は身体を起こしてふわりと笑うと当然のように、狼狽している姫を抱き寄せた。
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