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その人が、キョロキョロと店内を見回す。
入口を背にして座っていた仲村が振り返り、「こっち」と右手を挙げた。
笑顔を見せてこちらに向かって歩いて来たその人は、私たちの席の横に立った。
「お待たせしてごめんなさい」
「こっちこそ、無理言ってごめんね」
「無理だなんて、とても楽しみにしてたのに」
「なら良かった」
私の存在を無視して交わされる二人の会話。
空気と化すことには慣れている。
こういう状況になった時は決して主張してはいけない。
そんなことをしようものなら、空気どころか毒ガス扱いされてしまう。
私は黙ってその女性を眼鏡越しにこっそり観察しながらアップルティーを飲んでいた。
フワフワと軽い感じのロングヘア。
アイボリーのざっくり感のある薄手のニット。
グレーのマキシ丈スカート。
モカベージュのカジュアルなパンプスがスカートの下に時々顔を覗かせる。
細くて長い指を通して髪をかき上げる仕草。
切れ長の目に長い睫毛。
美しく艶めくけれど、色の主張を感じさせない唇。
ザ・ナチュラル
長身でほっそりとしたそのその女性を表現するなら、この言葉に尽きる。
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