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「ありがとうございました」
私はペコリと頭を下げる。降りたウィンドウから顔を覗け、「じゃ、楽しみにしてるよ」と課長が手を上げて走り去る。
「・・・」
暫し放心状態。さっきの約束は夢なのか、現実なのか・・・。私は見えなくなった車の残像を見つめていた。
「サラちゃん!」
「は、はい!」
後方から名前を呼ばれ、私は我にかえる。振り向いた先には手招きをする志穂さんが居た。
「志穂さん。今日はわざわざありがとうございます」
軽く頭を下げた私に、志穂さんが耳打ちした。
「さっきのイケメン誰?社用車で送迎なんて、サラちゃんVIPなのね?」
「ち、違うんですよ!これにはいろいろと訳が・・・」
大きな鏡の前の椅子に誘導された私。店内は明るいのでどうにかメガネが無くても移動できる。
いつも志穂さんが指名する美容師さんが来るまで、少し時間があったので、先ほどまでの出来事を話した。
「デートが控えてるんじゃ、力入っちゃうわね。大丈夫よ。この前のヘアカタログもコピーして来たし、担当は腕がイイから」
「はい!メガネ無いのでハッキリ見えないのが残念ですけど・・・」
見えないだけに、かなりの不安はある。緊張する私の肩をほぐすように置かれた志穂さんの手が、とても心強かった。
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