133人が本棚に入れています
本棚に追加
更衣室を出て一つ深呼吸。私は廊下で待っている蒼人のところへ向かった。
「ごめんね。おまたせ」
いろんな感情が入り混じって、蒼人の目を見ることができない。
目線を彼の胸元辺りまで上げるのが精一杯だ。
「うん。完璧」
蒼人は一言そう呟くと、オフィスの方へ向かって歩き出した。その後ろを追うように、私も続く。
昨日までの私たちは、完全に友達同士だったのに・・・。今日は簡単な会話すら出来ない程ぎこちない関係になってしまった。
そんなことを考えながらぼんやり歩いていると、知らぬ間に立ち止まっていた蒼人の背中にぶつかってしまった。
「きゃっ!ごめん」
驚いて謝る私の後ろに回り込んだ蒼人が、そっと私の背中を押した。
「いきなり真打登場だ。他のヤツは居ないから、早く行け」
「え・・・」
オフィスに押し出された私の視界に飛び込んだのは、コーヒーを飲みながら窓の外を眺める課長だった。
ど、ど、ど、どうしよう!
入口付近で固まる人の気配に気づいて、課長がこちらに目線を向ける。
とにかく挨拶しなきゃ!
そう思うけれど、緊張で声も出ない。お互いに沈黙のままの数秒。
足は一歩も前に出せない程固まっているのに、震え出してしまう。
「く、栗原さん?」
先に話掛けたのは課長だった。
最初のコメントを投稿しよう!