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「こ、恋人ですか?」
「ああ。ふりでいいんだよ」
現実的にありえない依頼に、私はかなり驚いた。
そんな私に、課長は申し訳なさげに笑顔を向ける。
上司からのお願いだし、即答で断ることも出来ない。
とにかく、今のところ課長の言葉だけでは詳しい内容が分からない。
「その・・・阿部くんがね・・・」
「あ、相手は阿部さんですか???」
「ああ、阿部くんから相談を受けていてね。ご両親が決まった相手が居ないなら見合いをと・・・しつこく迫られているらしいんだ」
確か阿部さんは童顔だけれどもうすぐ30歳。
ご両親が心配してもおかしくはない。
「付き合ってる相手が若いから、あと数年待って欲しいと嘘をついたらしいんだ」
「はぁ・・・」
なんでまたそんな変な嘘ついたんだろう。
その場凌ぎにしても、もう少し何かあっただろうに・・・。
「で、一度相手に会いたいと言われたらしくて」
「・・・」
断りたい。
けど・・・
他ならぬ斉木課長からのお願い。
私の仕事を認めて、ここへ連れて来てくれた人。
本店勤務になってからも、不便や不都合の無いように気を遣ってくれている。
「若い女の子の知り合いなんて居なくてね・・・」
課長も私なら断れないと思ったのだろう。
「わ、わかり・・・ました」
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