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楽屋の中では、大きな鏡の前で眠たそうにうつらうつらしながら胡座をかいている男性の髪を、ワックスと櫛を手にした男性が真剣な眼差しでセットしている。
上條宮登-かみじょうみやと-(22)は、額に滲んだ汗を肩の袖で拭うと黒目が目立つ瞳を更に大きく見開き鏡の中で静かに寝息を立てている男の姿を見詰めた。
最近、染め直したばかりだからだろうか。
綺麗なブラウン色に染まった、少し癖がある髪はいつもより艶がないように思える。
だがそれくらいのことでは、彼の魅力が落ちることはなかった。
現に今、普段テレビでは晒さない無防備な姿すら様になってしまう。
此処に彼のファンがいたら発狂するところだろう。
そんなことをふと思い、宮登は苦笑いすると男の肩を軽く揺すり現実へと引き戻す。
「コウ? 出来た」
美崎コウ-みさきこう-(23)は、宮登の声に、長めの睫毛を小刻みに揺らし重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。
鏡越しに宮登と視線が重なると、色素が薄い茶色の瞳を細め口元には笑みを浮かべた。
「ん? あぁ……もう?」
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