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この突然変異で生まれた茗荷の花は、その香気成分の中に特殊な
物質を含んでいる。
周囲に飛散したこの香りの成分が周囲の人間の知覚に作用し、その結
果、花粉の発信者である聡の存在を認識できなくしてしまうのだ。
茗荷を食べると物忘れが激しくなる、そういう言い伝えだけの効
能が変異丸によって作り出され、更に彼の「自由になりたい」という
望みに合わせた能力と化したのである。
実際、今の彼に邪魔をする物も、危害を加えるものも皆無だった。
店先から果物を盗んで食べるという些細な悪事から、女の下半身に手
を入れまさぐるといった下品な所行まで、あらゆることを楽しんだ。
だが、まだ行っていないことがある。
殺しである。
憎むべき人物に、復讐するのだ。
聡は工具店から堂々と金槌を持ち出した後、商店街を出た。
先ほどまでのにやけとは対照的な、緊張した面もちで。
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