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「僕、茗荷(みょうが)が好きです」
「茗荷?」
「はい、天ぷらが特に好きなんです」
「茗荷! 茗荷ねえ! これはこれは……」
「だ、だめですか……」
「いや、おもしろい、実に面白いよ。君、茗荷を頭に念じて、こ
の薬を飲みなさい」
背の低い男は懐からビンを取り出し、更にその中から一粒の丸薬を出
してもう一人の若い男に見せた。
「えっ!? ど、どうしてですか」
「茗荷を食べ過ぎると、物忘れが激しくなるというだろう?」
「でも、迷信ですよ」
「本当かウソかはどうでもいいんだ。君が茗荷のことを頭に想い
ながらこの薬を飲めば、君は自由になれる」
「……」
「さあ、このまま生きていても君は虐げられ、ボロ雑巾の如く惨めに
捨てられるだけじゃないか、ほら!」
「でも……」
背の低い男は、若い男に無理矢理薬を握らせた。
「まあ、飲みたくなければそれもいいさ。だが、これだけは言える
それを飲めば……君は変化する」
背の低い男はそう言い遺し、立ち去っていった。
若い男はその後ろ姿をしばらく眺めていたが、やがて意を決したよう
に、掌中にあった丸い薬を口に含んだ。
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