第三話 忘れられたい

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「僕、茗荷(みょうが)が好きです」 「茗荷?」 「はい、天ぷらが特に好きなんです」 「茗荷! 茗荷ねえ! これはこれは……」 「だ、だめですか……」 「いや、おもしろい、実に面白いよ。君、茗荷を頭に念じて、こ の薬を飲みなさい」 背の低い男は懐からビンを取り出し、更にその中から一粒の丸薬を出 してもう一人の若い男に見せた。 「えっ!? ど、どうしてですか」 「茗荷を食べ過ぎると、物忘れが激しくなるというだろう?」 「でも、迷信ですよ」 「本当かウソかはどうでもいいんだ。君が茗荷のことを頭に想い ながらこの薬を飲めば、君は自由になれる」 「……」 「さあ、このまま生きていても君は虐げられ、ボロ雑巾の如く惨めに 捨てられるだけじゃないか、ほら!」 「でも……」 背の低い男は、若い男に無理矢理薬を握らせた。 「まあ、飲みたくなければそれもいいさ。だが、これだけは言える それを飲めば……君は変化する」 背の低い男はそう言い遺し、立ち去っていった。 若い男はその後ろ姿をしばらく眺めていたが、やがて意を決したよう に、掌中にあった丸い薬を口に含んだ。
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