第三話 忘れられたい

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「(自由になれる……昨日会ったあの人はそう言っていた。そして、 確か薬を貰って、それを飲んだ)」 小便器で用を足しながら、男は物思いに耽る。 「(しばらくすると頭が重くなって、気がつくと朝、浜辺に倒れてい た……)」 用が終わり、男は便器から離れた。 「(そして、皆が僕のことをいないかのように振る舞う……)」 ともかく手を洗おうと、すぐ右にある洗面場の方を振り向いた時、男 は絶句した。 鏡に映ったその顔は、見知った自分の顔ではなかった。 薄ら赤いと緑色の繊維的な肌に、細長い輪郭。 そして頭上には、真っ白なつぼみが、先端から垂れる黄色い弁と共に そそり立っていた。 この滑稽かつ奇っ怪な姿を見てこの男、江藤聡は自分が”変化”し、”生まれ変わった”ことを悟った。
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