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誰かにずっと聞いてほしかったけど、とても恐ろしくて口にできない夢を幼い頃から度々見る。その夢は、とてつもなく悲しくて、そして苦しくて、それでいて、切ないほど愛する気持ちでいっぱいだ。
私は目が覚めるといつも疲労感が半端ないし、現実と夢を区別できないほどリアルで、今こうしてここに生きていることが不思議に思うこともある。
見たくない。なのに、今日も、また――。
「巫女さまのお支度が整いました」
厳かに行われる何かの儀式。祝詞(のりと)なのか、何かの呪文のようなものを男の人が必死に唱え続けている。薪に火が灯され、しめ縄みたいなものと、穀物が祀られた祭壇の横を通り過ぎて、私はまっすぐ歩いていく。
私のことを皆が見に来ているみたいで、着物に袴姿の女の人と、狩衣を着た男の人がわらわらと祭壇の後ろで正座して控えていた。
「巫女様」
「巫女様」
その人たちは両手を合わせて祈っていた。
どうやら私は巫女と呼ばれる存在らしい。
でも赤い袴は履いていなくて、白装束姿。
裸足で歩かされているから、砂利が食い込んで足の裏がチクチクと痛み、そして、ひどく悲しく、何かとてつもなく大きなものを恐れていた。
けれど、私は歩みを止めない。
「香子(かおるこ)!!」
「こら、なりませぬ! 神聖なる儀式の最中にそのようなこと」
ふと振り返ると、私を呼んだ男の人が、周りの人に地面に押さえつけられていた。
私は、その人に向かってほんの少しだけ微笑んだ。
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