人よ神よ鬼よ

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レンは天井に背中を打ち付け、床に落ちた。それでも息があったが、今のピエルにとってはどうでもよかった。 「……ここで果てたくないんだよ。永く居すぎたんだよ、私は。 死と生の間で、存在し続けること。そこに未練はない。 だが、ここ、この城が嫌なんだ。ここは静かで、侘しく、人の心で……いや、生者としても死者としても、存在し続けることにおいて、あまりにも過酷な冥界とも言うべき場所だ。 私は、ここではないどこかに行きたいんだよ、ほんの刹那でも! 逝くなら、ここではないどこかで逝きたいんだよ! そして患者でもヴァンパイアでもない、ピエルという名で朽ちたいのだ!」 レンは、ピエルの本音を聞いた。 ピエルの表情は苦しみで満ちていた。鋭い八重歯をむき出しにして、眉間と鼻の周りに細かいシワを刻んでいる。 その表情の裏では、様々な感情が渦巻いていた。 レンは起き上がろうとしていたが、ピエルはすかさずレンの四肢を踏みつけた。 やがて、ピエルはゆっくりとレンの下にしゃがみ込むと、レンを抱きかかえた。  
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