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老人はクラウドに、立つ木を見るような愛を贈るのと同時に、拭いきれない知的欲求を抱いていた。
それは常人が知れば、狂気の沙汰としか言いようのない域だった。
兎を石にさせてみたり、彼女が寝ているときに、毛髪の蛇を一匹切り取って、切り離した蛇がどうなるかを観察したり、頭頂部の毛から陰毛に至るまで、すべての体毛が蛇なのか、と老人はクラウドをモルモットのように研究していた。
手記のなかでは対象をメドゥーサと呼んでいた。
それが、その世界における蛇の邪神の名だった。
クラウドにとって、老人の存在は世界のすべてだった。
父親であると同時に、ある意味、図書館であり、教師であり、友人であり、社会そのものだった。
老人の罪は、娘とも言うべき彼女を研究したことでも、他者が神と呼ぶほどの人物を凌辱したことでもない。
彼女に、それが異常な行為だ、と理解させるほどの学と常識を与えてしまったことにある。
その学と常識さえ教えなければ、いっそモルモットと同じように扱ってくれれば、彼女はそこで絶望を知ることはなかった。
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