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クラウドは細く硬いミイラとなった老人の亡骸を小屋もろとも燃やし、手記を持ってその森をあとにした。
その手記はクラウドの説明書のようなものだった。
それを持っていった理由は、それを読み解く度に、彼女の心に未だかつてない暗黒の感情が生まれるからだ。
平穏で質素な暮らしをしてきた彼女にとって、その情念は臭いものをもう一度嗅ぎたくなるような中毒的な刺激で、それを抱えて奇声を発してみたり、動物を破壊してみたりすると、排泄感にも似た余韻が彼女を満たした。
彼女は、社会に生きる大抵の者がその感情のことを〝憎悪〟や〝狂気〟と呼ぶことを知らない。
老人が生きていれば、手記にこう書き加えるだろう。
『メドゥーサも人間と同じように、脳内に麻薬を飼い、彼女は憎悪を孕めば孕むほど、それを分泌させ、快感を得る』と。
……だが、ストレスの発散ともいうべきその行為がいけなかった。
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