灰色の魔女

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「ああ、空に浮かぶ者のような名前だね。君は自由だ」 そう言って、ピエルはクラウドの手の甲に口づけをした。 ……石のように硬い唇だった。 クラウドは不思議な感覚を抱いていた。 この城の内側もそうだが、彼女は初めて、見つめても石にならない者と出会ったのだ。 「さあ、次はこの城についてを説明するよ、クラウド……」 ピエルは彼女が今までに体験したことがないほど、彼女を異国から来た大使のように、大切にエスコートした。それも、クラウドを不思議な気持ちにさせた。 クラウドは、自分があの老人をはじめとする一般的な人間とは違う、異形の者であることを知っていた。 だが、この城にいる者達は皆、クラウドと同じように、人間以外の者であり、城のなかは〝気品溢れる弱肉強食〟というルールがあるものの、彼女は今までの人生で、最も濃厚な安らぎを知る。 加えて、自分がどれだけ強い存在かも……。 灰色の魔女。メドゥーサの眷属、クラウド。 邪神の呪いと嫉妬から生まれ、狂気と愛の下、絶望を知るほどの良識を孕んだ、不安定な心の持ち主。  
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