吸血鬼社会

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患者がその摩天楼から出ることは決して叶わない。銃を持った警護が何百人もいた。 脱出を試みようものなら銃殺され、脱出をしたところで辺りは海だった。 よって、すべての患者が人間の親兄弟と再会することはなかった。 患者は奴隷のように扱われ、海の底にあるオイルの発掘をさせられていた。 その作業は炭鉱の発掘以上に過酷で危険だった。 炭鉱で起こりうる事故に加え、地上と気圧が異なる深海内の洞穴を掘る、という人間には到底できないような仕事だった。 患者達は使い捨てのショベルとなり、過酷な労働環境で虐げられた。 加えて政府は、夜にだけ出す赤いスープに、彼らの血液を混ぜた。 患者同士の血液摂取は、彼らの寿命を縮めることがわかっていた。 政府は摂取した患者の血液を薄め、それを飲ませ、彼らの寿命に制限を設けた。 若き青年がいた。 短い銀髪で生命感のない肌、と典型的な吸血病患者だったが、彼は他よりもさらに賢く、そして美しかった。 彼の父親は摩天楼の内情を知る有力者で、我が子を収容することを躊躇し、結果、息子は青年期まで、両親に匿われた。  
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