人よ神よ鬼よ

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永きにわたる時間は、彼の心を蝕んだ。 幼心で芽生えた正義感や強き意志の灯火は、歳を取り、他者との関わりを繰り返すうちに、あるいはまったく他者と関わらない時間を経て、弱弱しくなっていった。 決意や目標の炎は、蝋や酸素を失い、風に吹かれ、ぶれたり、ぼやけたりして、ある日を境に消えた。 何もしない。そんな時間が数十年続いた。 難題におけるすべての正解は、最も難しいことを実行する、ということ。それを、有識者ピエルは知っていた。 だが、絶望に打ちひしがれたピエルは正解を忘れ、楽な道を選んでしまう。 彼は昆虫の生態をヒントに、個々の克服ではなく社会の克服を目指すことにした。 それは他の種族を幼虫のゆりかごにする昆虫だった。 こうして、彼は自分の心に嘘を吐き、摩天楼なる患者収容施設と、そのシステムを作った。 彼の目標は紆余曲折し、詰まるところ、自分さえよければ、自分さえ幸せならばそれでいい、という究極のエゴを孕んだ。 その後、勇気ある患者の青年とともに、この城に流れ着き、悠久の時間を過ごした。 心の支えは女中の存在だった。  
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