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アスカとレンは最後の力を振り絞り、大木の根を半周した。
すると、大木の根に、子ども一人が入るほどの穴倉があった。
「ここから臭いがするわ」
先に、兄が入った。続いて妹が入った。木の根の洞穴は深く、いくら進んでも行き止まりはなかった。
それどころか、臭いが増していった。
やがて、強い光が2人の視界に見えてきた。
「俺たち……死んだのかな」
レンがそうつぶやくと同時に、アスカもまた、穴倉から這い出た。
そこは、信じられないことに、どこかの城の中庭だった。
「……お城のなか?」とアスカが言った。
「多分。絵本みたいな。けど、なんて禍々しいんだ……」
その建造物の設計は、兄妹の知識の範疇を超えていた。
壁を形成する煉瓦のひとつひとつが歪に隆起し、それは人間の苦しむ表情に見えた。
兄妹が出てきたのは、入って行った大樹とはまた別の大樹で、枝垂桜のように葉模様が垂れ、生命力は枯れている様子だった。
だが、その庭園の手入れはひと目で見事だとわかる。
2人はしばらくの間、その別世界に唖然としたが、やがて兄が妹を背負い、再び歩き始めた。
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