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―先にも言った通り、この者は現と死人の世界の狭間で生きておる。じゃが、それも限界じゃ。この者は、現に戻らねばならぬ。この者のために。そして、わたくし達の世界のために。
泉には、彼女の言っていることは半分もわからなかった。
ただ、
―言葉通りじゃ。大姫は、消える。
この言葉は、何か不吉なことを言っているような気がしてならなかった。
だから。
大姫がこの現に留まっていられるように、できることはしたかった。
だけど、確かにここしばらくの大姫は、眠っている時間が増えたような気がする。
そんなことを考えながら針を動かしていると、大姫の部屋の方から布ずれの音が聞こえた。
「お目覚めですか? 姫様」
泉は縫い物を床の上に置くと、立ち上がり、大姫の部屋に入った。
眠っている大姫の目覚めの助けになれば、と少し前に木戸を開け放った大姫の部屋は、明るい光で満ちている。
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