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切り立った石の壁を通り抜けると、視界が開けた。
それは、まるで閉じていた空が急に割れて、一気に広がったように思えた。
「お父(とう)、あれが海?」
泉(いずみ)は、馬を連れて自分の前を行く父に問うた。
泉の視線の先には、薄い青の色が広がっている。
真上の空の色は、群青。
暖かい、春の日だ。
「いや」
父は、泉の方をちらっと見て再び前を向くと、首を小さく振った。
「ここからは、海はまだ見えん。あれは、空の色だろう」
「ありゃ、かわいか娘さんじゃねえ」
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