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その会話が聞こえたのか、切り立った石の壁のすぐ近くで、店を開いている男が声をかけて来る。
簡易に作られた軒下で、藁を編んで作ったらしい敷物の上に、野菜やら果物やらが並んでいる。
「こんにちは」
泉は、ぺこりと頭を下げた。
「娘さん、海は初めて見るのかい?」
「はい、そうです。私の故郷は山の方にあるので、海は初めて見ます」
にこにこと話しかけられ、泉はこくんと頷いた。
「お武家さん、あんたこんな小さい子を歩かせているのかい? そこにそーんなりっぱな馬がいるんだ。乗せてあげりゃあいいのに」
男は商人特有の気安さからか、泉の前にいた父に声をかけた。
いつも無骨な表情を崩さない父は、じろっと男を横目で見下ろした。
「だって、馬は大切だもの」
そんな父を庇うように、泉は言った。
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