1 萌黄(もえぎ)

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「あの畠山(はたけやま)重忠(しげただ)様だって、一(いち)の谷(たに)の戦の時には、馬を背負って崖を降りられたんでしょう? 馬は、ここ一番の時に使わなきゃいけないから、いいんです」  それは、常々父が言っている言葉でもあった。  武士として、馬を使うことはよくよく考えなければならない、と。  馬は、人間を乗せて走ってくれる。  でも、馬だって生き物なのだから、疲れる。  一番大切な時に走れなくては、武士としての役目は果たせなくなる。  だからこそ、馬は大切に扱わなくてはいけない、と。 「こりゃこりゃ、賢い娘さんじゃなあ」  商人の男は、笑いながらそう言った。 「泉、よけいなことは言わなくていい」 「お父」  そんな男の言葉を遮るように、父は言った。 「それよりも、急ぐぞ。先方をお待たせするわけにはいかないからな」
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