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「あの畠山(はたけやま)重忠(しげただ)様だって、一(いち)の谷(たに)の戦の時には、馬を背負って崖を降りられたんでしょう? 馬は、ここ一番の時に使わなきゃいけないから、いいんです」
それは、常々父が言っている言葉でもあった。
武士として、馬を使うことはよくよく考えなければならない、と。
馬は、人間を乗せて走ってくれる。
でも、馬だって生き物なのだから、疲れる。
一番大切な時に走れなくては、武士としての役目は果たせなくなる。
だからこそ、馬は大切に扱わなくてはいけない、と。
「こりゃこりゃ、賢い娘さんじゃなあ」
商人の男は、笑いながらそう言った。
「泉、よけいなことは言わなくていい」
「お父」
そんな男の言葉を遮るように、父は言った。
「それよりも、急ぐぞ。先方をお待たせするわけにはいかないからな」
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