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「お武家さん、娘さんを怒らんでくださいよ。わしの方から話かけたんですからね」
商人が、父に向かってそう言って、泉に
「これを持っていきな」
と、敷物の上に置かれていた枇杷を、泉に二個渡してきた。
「え、でも……」
「いいから。父上と一緒に食べな」
ぐいっと押し付けるように枇杷を渡され、泉はぺこりと頭を下げて枇杷を両手に持つと、先に歩き出した父の後を追った。
「お父!」
ぱたぱたと小走りで父に追いつくと、馬のアオが、ぷひひひっと鳴いた。
「アオ、お前の主人は私で、泉ではないだがな」
父がアオの手綱を握り締めながら、それでもあきらめたように立ち止まった。
「さっきの人が、お父と一緒に食べろって」
泉は息を切らせながら、父に枇杷を差し出した。
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