■鍾乳洞

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【01】  広いバスロータリーに 一台の観光バスが入ってきた。 利一達を乗せた一号車のバスが 次の目的地である雲ヶ原駅に到着したのだ。 座席でまどろんでいた利一は 軽く伸びをする。 隣を見ると、相瀬さんは 目をつぶって背もたれに頭を任せていた。 さすがに 利一を“枕”にするのは自重したらしい。 そんな彼女の傍らの窓は 僅かに 開いていて心地良い風を送ってくれている。 利一は一時、目を閉じて その爽快感をふんだんに味わった。 …しかし、 すぐに不快感が甦ってきた。 利一は胃の辺りを擦りながらタメ息をつく。 彼は今、 お腹に違和感を覚えている。 カレーを過剰に食べさせられたからだ。 利一はキャンプ場での事を思い出す。 あの後、利一は苦心して 何とかカレーを食べ切ったが その代償は大きかった。 気分が悪くなり、 行動するのがとても億劫になったのだ。 一方、相瀬さんの方はと言うと 結局カレーは残し その後は片付けに従事していた。 姫野さんの予想とは反して 戦闘不能に なってしまったのは利一の方だった。 むしろ、 無口チビは即戦力となったのである。 利一の“不具合”は バスに乗ってからも変わらず 今もイマイチ全快はしていない。 …バスの中で何度も相瀬さんに、 「…大丈夫…?」と 心配そうに聞かれたのが印象的だった。
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