3、自分が幸福であるという事をしらないから不幸なのである

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目の前は机いっぱいに乱雑に広がった紙。 アニメ用のチェック絵コンテ 手書きの台本 ポスターのラフ画 ゲームの立ち絵 ゲーム用の画像ラフ画。 「あー! 無理―!」 関西の端の田舎。 深夜の自室で完全に頭を抱えていた。 書きたい事は山ほどある。 筆が止まっている訳でもない。 それなのに一向に仕事は片付く気配はなし。 部屋の隅にはオープニング・エンディングの曲のデモと絵コンテまで置いてある。 何から何まで目を通して作り上げられる事に嬉しさ以外ない。 それなのにこうも頭を抱える理由はその量の莫大さ。 三日前、実家に段ボール箱が届いた。 そしてその中に入っていたのが今目の前にある紙達。 別にここまで首を突っ込む必要なんてない。 でもやりだしたら止まらなくなった。 そして何より、後からここは……と言うより、この最初の段階で直しておけばあとは出来上がるのを待つだけでいい。 ただ何事も始めが大変なだけ。   一息入れようと足音を立てずに静かにキッチンへと降りて行った。 「あれ? まだ起きてたん?」 「うん。そっちこそ」 「明日の研修の資料作ってた」 「私も仕事してた」   キッチンには母親の姿。 どちらも仕事に追われながら眠い目を擦っている。
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