3、自分が幸福であるという事をしらないから不幸なのである

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タクシーに乗ったのは覚えてる。 皆と楽しく飲んで、いや、完全に飲み過ぎていて実は良く覚えていない。 覚えているのは、少し心配そうに困った顔で笑う三咲さん、笑顔で手を振る他の人達。   確か同じ方向だとタクシーの相乗りをした所まで。     靴を脱ぎ捨てベッドにダイブ。 シーツの感触が火照った体に気持ち良い。 既に瞼は重くて自分の意志では上げる事が出来たくなっている。 「私、本当に今でも夢じゃないのかなって思う事があるんです。こうやって東京にいると実感があるんですけど、家に帰るとね、朝起きて全部夢だったんじゃないかって……」 「夢の方がいい?」 「え?」 「だってこっちに居る間ほとんど睡眠時間もないんでしょ?」 「そうですね。でも夢じゃ嫌です。今こうやって憧れの人達やスタッフさんと仕事出来て本当に幸せだなって思うから。睡眠時間なんてどうでもいいんです……」 「今ぐらいゆっくりしたら? おやすみ瑠璃ちゃん」   誰かが優しく髪を撫でてくれる。 それが心地よくて。 大好きな声。 一緒にいるのは誰だっけ? もう考える事を辞めた頭は私に答えをくれなかった。 瞼を閉じていてもわかる。 ベッドに腰かけていた人が立ちあがり、電気が消え、ドアの閉まる音がした。 耳に残るあの優しい声を私は知っているはずなのに……。
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