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「それはね」
そう言って急に顔を上げ、ぐっとその距離を詰められた。
「鳴鈴実(あずみ)にどうしても会いたくて」
低くて少し艶のある声。もう十年近く聞いてきた大好きな声。今まではテレビを通して、ラジオを通して聞いていた声を耳元でそっと囁かれる。
「ちょっ! ちょっとやめて下さいってば! 仕事用の声使うの禁止って言ったじゃないですか!」
「好きなくせに」
「そ、それはそうですけど……」
「浅井(あさい)さんの声の方が好きなんだったっけ?」
「へ? 浅井さん?」
「あれ違った?」
「確かに浅井さんの声は好きですけど」
「俺とどっちがいいの?」
「はぁ!? 意味がわかりません!」
いつの間にか記入の終わっていた紙を奪い取り、そそくさと受付へと向かって歩いていった。
こんな顔見せられたもんじゃない。
必死に赤くなる顔を隠す為に、少し受付で無駄話をしてから、番号札を持って三咲さんの元に戻った。
声優の三咲亮介(みさき りょうすけ)
今、私の心を乱す唯一の存在。半年前まではこの人がこうやって目の前にいる事自体、想像する事すら出来なかった。
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