2、事実は小説よりも奇なり

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打ち合わせを終え、自動販売機の置いてある小さな休憩室で、缶珈琲片手に一息いれていると、音響監督である西浦さんに呼び止められた 「キャスト会議参加してね」 「キャストですか?」 「そ、前に瑠璃ちゃんは書いてる時に頭の中で声がするって言ってただろ?」 「はい。ちなみに動画で動きます」 「だから、自分のイメージに近い声優さん何人かあげといて。まぁ予算とかスケジュールの関係もあるから全部希望通りとはいかないけど」 「いいんですか? 私なんかが」 「おいおい、瑠璃ちゃんは原作脚本担当、更に今回は監修だろ?」 「あはは、じゃー上げておきます。ありがとうございます」 丁寧にお辞儀をしながら、嬉しさで顔が自然とにやけてくる。 キャストと言う響きだけでこうなってしまうには理由があった。 それは私はアニメが好き以上に中の人、と呼ばれる声優さんが大好きだった。声だけで演技をする。 その魅力にとらわれたのは中学時代だった。とあるアニメの主人公役だった声優さんの声。 普段の静かさと、とあるきっかけで爆発する勢い。 そのギャップが印象的で忘れられなくなった。 そこから私はみるみるうちに声優さんに憧れと尊敬を抱いていった。 ただ自分が声優になりたいとは思わなかった。 その頃既に物書きを始めた私はいつか、自分が書いた話がアニメになれば……。 その頃からの夢が今、本当にかなってしまったんだと。 だから西浦さんが上げておいて、と言っていたがそれは必要なかった。 私の書く物語の中の声は既に十年以上前から決まっていたから。 叶うはずがないと思いながらも書き続け、常に頭の中に響いていた声。 それがもしかしたら本当になるかもしれない。 その嬉しさがジワリジワリと込み上げては口元が緩くなっていく。 それを隠す様に珈琲を飲みほして、大きく伸びをし、私はホテルへと戻った。
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