2、事実は小説よりも奇なり

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翌朝、少し睡眠不足で大きな欠伸をしながらホテルの窓のカーテンを開けた。 窓の外には自宅とはかけ離れた風景が広がっている 。所狭しと並ぶ高層ビル。 道路を行き交う多くの車と人。 ここがいつもの生活している場所と違うんだと実感しながら用意を済ませた。 今日はキャスト会議。 夢がまた一つ叶うかもしれない。とはやる気持ちを抑えながら私はホテルを出た。 「西浦さん、おはようございます」 「瑠璃ちゃんおはよう。あれ? 寝不足?」 「え? わかります? 何か緊張しちゃって」 「ちゃんと寝ないと。今日も予定詰まってるんだろ?」 「そうなんですよ。でも大丈夫です。ドキドキして眠れなかっただけですから」 「会議まだ慣れない?」 「いえ、今日は特別です。キャスト会議ですから」 「決めてきた?」 「はい。希望は、ですけどね」 「瑠璃ちゃんの頭の中がどうなってるのか楽しみなんだよね」 「あはは。それ言われると余計に緊張しちゃいますよ」 「それは失礼」   あはは、と笑う西浦さんの表情に少し気持ちが軽くなった。 年も近くて話しやすく、最初に制作会議で隣に座ったのがきっかけで良く声をかけてくれる。 これからアフレコが始まれば一緒に仕事をする時間が今まで以上に増えるんだろうな。   西浦さんと一緒に会議室に入ると、まだ四十代なのに、まさに監督さんと言う独特の重圧感のある雰囲気のある監督の山下さん すらりとしたスタイルの良さが引き立つ腰までの長い髪を一つに束ね、優しい印象の作画監督の伊藤さん いつも笑顔で少しお腹の出ている制作進行の山路さん そして隣に立つ長身で縁なし眼鏡とソフトモヒカンが印象的な音響監督の西浦さん その他にアニメーション会社の担当者 ゲーム会社の担当者 今回のアニメ制作に携わるお偉いさん方が一堂に顔を揃えている。 この空気、何度経験しても慣れなくて、体中にピリピリと緊張が走る。
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